設立趣旨

全日本患者安全組織文化学習支援財団趣意書

  20世紀の医療は、科学的な医学知識、高度な医療技術などを医療者が身につけ実践することを推進しつづけ、一定の成果を得たようにみえます。合衆国ではIOM (Institute of Medicine) が年間44,000から98,000名の患者が、病院内で避けられる死亡に至ったと推定しています[1]。つまり、前世紀の医療は高度な医療を達成した影に、患者安全を課題として残したままといえます。


世界各国では患者安全を目指した諸団体が活動し、ある成果を示しています。国内でも日本医療の質・安全学会、日本医療機能評価機構認定病院患者安全協議会始め、様々な団体が、主には情報共有や講習会実施など患者安全な実践を目指した活動を行っています。


従来、医療界では、医療安全に関する様々な対策を講じてきたはずです。例えば、医療安全対策として院内での心停止に対応すべく、心肺蘇生術教育が行われてきました。2003年4月以来、日本救急医学会認定のICLS受講者数は180,263人、日本ACLS協会は設立後約9年間で受講者数が20万人を突破したと発表されています。このように非常に多くの場で膨大な資源を投じながら、心肺蘇生術教育が実施されてきました。しかしながら、病院で心停止になった患者が生存して退院する可能性の改善は議論の的です[2,3]。つまり、従来の教育訓練は、ほとんどが、カークパトリックの教育訓練成果4レベル[4]のレベル1,2の満足度達成や試験合格レベルでとどまり、現場での行動変容というレベル3さえ達成していない懸念があり、レベル4としての患者安全が促進する期待は持てないことになります。


一方国内では、医療事故調査会[5]が我が国での医療過誤での死亡が年間3-4万人と推定していますが、患者安全の状況は不明であり、上記のIOMレポートには様々な論点もあります[6]。海外では患者安全指数を示しながら、患者安全への取り組みを促進している団体もあります[7]。最近は、世界保健機構(WHO)が、学生向けながらWHO患者安全教育カリキュラムを示し、PDSA(plan-do-study-act)サイクルの応用を含む改善科学を用いた患者安全教育訓練の推進を図っています[8]。日本でも患者安全促進は具体的な評価と連動した実践が求められます。


これまで行われてきた情報共有や講習会実施などの活動では、患者安全が促進しない理由として、


1)病院組織パフォーマンスを評価する「患者安全指数」の応用が一般的でない

2)病院のシステム改善と教育・訓練の連携が乏しい

3)患者安全の仕組みが一般の医療機関にとって後付けであり、統合された部門でない


などが挙げられます。


私達は、これらの課題に取り組むために、この度、「全日本患者安全組織文化学習支援財団」を設立し、日本のみならず地球規模で求められる患者安全の促進を目指し、患者安全実践と患者安全研究発展を支援するプロジェクトを開始することにしました。


上記の理由それぞれへの対策計画の概略として、


1)患者安全指数の開発と応用を促進し、その指数変化に基づき患者安全を促進する

2)教育工学や改善科学を用いた効果的効率的な教育訓練と、医療組織パフォーマンス改善を図る

3)医療領域で新興的、かつ世界に先駆けて日本で発展する在宅医療の領域で、後付けではなく第一に患者安全を基盤として医療組織パフォーマンス改善・医療人能力開発を促進する


を掲げます。


世界では、患者安全と共に、高齢化社会への対応を迫られています[9]。私達は「全日本患者安全組織文化学習支援財団」での活動によって、患者安全の促進が基盤となった在宅医療(在宅生活支援サービス)組織の学習開発プログラムを発展させ、世界に先駆けて高齢化する日本での在宅医療実践の実績に基づいてアジアや世界での患者安全な在宅医療そして従来の医療システムの転換へ貢献したいと考えています。


1. Kohn LT, Corrigan J, Donaldson M, (eds). To Err Is Human: Building a Safer Health System. Washington,D.C.: National Academy Press; 1999.

2. Ehlenbach WJ, Barnato AE, Curtis JR, et al. Epidemiologic study of in-hospital cardiopulmonary resuscitation in the elderly. N Engl J Med 2009;361:22-31

3. Girotra S, Nallamothu BK, Spertus JA, et al. Trends in Survival after In-Hospital Cardiac Arrest. N Engl J Med 2012; 367:1912-1920

4. Kirkpatrick DL and Kirkpatrick JD. Evaluating Training Programs: The Four Levels, 3rd Ed. Berrett-Koehler Publishers, 2006

5. http://www.reference.co.jp/jikocho/sympo0510.html

6. 齊尾 武郎, IOMレポート『人は誰でも間違える』の真実, Rinsho Hyoka(Clin Eval) 36;717-24, 2009

7. http://www.100tophospitals.com/assets/Health_System_Hospitals_Perform_Better.pdf

8. http://www.who.int/patientsafety/education/curriculum/tools-download/en/index.html

9. 21世紀の高齢化、http://www.unfpa.or.jp/publications/index.php?eid=00034